国内外を行き来する一人の獣医師が全ての飼主様へ伝えたい事が綴られています。
『夏の日のお散歩は夜7時を過ぎてからじゃないとアスファルトが熱くてキケンだよ』と隣人に言われたAさん。
それから真夏日は夜7時まで待ち、アスファルトが熱くない事を手で確認してから散歩に出かけていたそうです。
またある日も、手でアスファルトの温度の確認をしてから散歩に行きました。他にも散歩をさせている方が何人もいらっしゃったそうですが、そのわんちゃんは途中で苦しみだしました。歩けなくなり、熱中症で倒れ、緊急の処置の甲斐なく死亡してしまいました。
Aさんのわんちゃんは、10才の和犬、心臓や肺の病気は無し。
ただ言える事は、暑さの感じ方、体温のコントロール力は個体差があるという事です。
フレンチブルドッグのような犬種だけが暑さに弱いのではなく、人と同様に暑さに対する順応性も犬の年齢により低下します。
<教訓>
・何時以降だから、気温何度以下だから大丈夫という保証は無い。
・他の犬が元気に散歩できるから自分の犬も大丈夫とは限らない。
アスファルトも時間も温度計もチェックしていたAさん。
でも、一番見てあげるべきは自分の犬だったのです。
Bさんは、4才の猫のワクチン接種のお知らせのハガキを受け取りました。
ワクチンの期限が切れたら大変と思い、いつもの病院に予約を入れて来院。
予約はお昼の12時ちょうど。
病院はとても混んでいて、予約したにも関わらず待合室で少し待たなくてはなりませんでした。
ふと気が付くと、キャリーの中の猫が、口を開けてハァハァし始めました。
幸いすぐにスタッフが対応し、獣医師が治療処置をしてくれたため命に別状は無かったですが、結局ワクチンは打てず帰宅する事に。
車で移動中や病院の待合室が快適で涼しい温度でも小さなキャリーの中は風通しも悪く、思わず温度が上がる事があります。
他の動物の鳴き声や病院の匂い、家を出る事に慣れていない場合は特にそれだけでストレスで体温が上がります。
<教訓>
・ワクチン・定期健診などの急を要さない事は、時期をずらしてから来院するよう心掛け、気持ちの余裕を持ちましょう。
・予約を受ける病院側も、気を付けて来てくださいではなく、時期をずらすよう促し、猛暑の日はなるべく外出を控えるように指導できればと思います。
Cさんは、大きな和犬を庭で飼っていました。家は日本式で庭も広く木陰がたくさんあり、また風通しも良い作りでした。
今年12才になる和犬も春の予防接種の時の検診では異常なく健康であると言われていました。
Cさんも毎年夏は特に気を付けて十分すぎる量の冷たい新鮮な水をいつでも飲めるように給水し、木陰がちゃんとあるか確かめ、庭に温度計もありました。しかし、残念なことに和犬は熱中症で倒れ、そのまま亡くなってしまいました。
『毎年ハァハァしながらも木陰で休んでいて大丈夫だったから』
『一度室内に入れようとしたけど嫌がって外に行こうとしたから』
『風が吹くと結構涼しくなり26℃くらいになる庭だったから』とCさんはショックを受けていました。
夏の暑さは毎年同じとは限りません。犬も加齢と共にたとえ持病が無くとも暑さに弱くなり体力も低下します。また、
風が吹けば涼しい庭も風が吹かなかったら暑いに違いありません。
<教訓>
・今まで大丈夫だった、は外飼いの判定基準になりません。暑さも変われば動物も高齢化します。
・ペットはみんな、涼しくした室内で過ごさせてください。
Dさんのジャックラッセルテリアはとても元気が良く、毎日のお散歩と遊びが大好きです。
以前室内で物をかじり破壊する問題行動の為にトレーナーと相談した際、毎日45分以上の散歩がとても大切だと言われました。そして、暑い日中は避け夜になってからいつものお散歩をしていました。しかし、その日は散歩途中で犬が熱中症で倒れ、痙攣して病院へ運ばれました。
<教訓>
・暑い時は犬も体力が落ちます。気温何度なら大丈夫ではなく、犬の調子、体力、疲労具合をよく見て初めから時間のノルマを決めずに軽めの運動を心がけるべきでしょう。
・トレーナーの行ったことはもちろん大切ですが、散歩ではなく、室内で行う運動にする等、夏は運動量も、運動のタイプも暑さに応じて変える事が大切です。
獣医師は熱中症予防対策として毛を刈ったりショートにすることをお勧めする事があります。
犬の年齢、体力、栄養状態や体温調節機能などを総合的に考えて行う、医療アドバイスの1つです。
しかし飼主様の中には
『このブリードは皮膚が敏感で刈ると紫外線で皮膚ダメージを受けるから』
『このブリードは目が弱く、顔周りをカットすると目が紫外線でやられてしまう』
『和犬の毛が密なのは暑さから体を守る為。刈ると逆に体温調節できずに熱中症になるから』
『一度ショートにしたことがあるけど、可哀そうになるくらい変な姿になったので』
などと拒否される事があります。
様々な情報をネットやブリードクラブ、ペットショップサロンなどから簡単に得る事が出来ます。
ご自分の好みもあるでしょう。もちろん、正しいものもあれば都市伝説、デマカシなど様々な情報が出回っています。
獣医師はその中で熱中症予防という視点から医学的に総合判断し勧めています。
どうか、命を守る医療アドバイスに耳を傾けて頂けたらと思います。
エアコンの無かった平安時代の日本女性は夏でも十二単を着て暑さに耐えた。だからエアコンなしで厚着をして我慢しなさい。と言われたらあなたは猛暑の中、12枚の着物を重ね着して過ごせますか?
動物は自らリモコンで室温調節する事が出来ません。
暑くて歩けなくなる前に、きっと必死で『あついよ』というメッセージを発信しています。
一匹で室内、庭、車内に閉じ込められて暑くなっても携帯で助けを求める事はできません。
自分のペットの命を守るのは飼主様しかできない事。
あなたの愛するペットはあなたの判断に命を委ねています。
という内容です。
獣医師のみなさんは、飼主様以上に目の前の動物の命と健康を守る為に日々切磋琢磨しているんだなと改めて感じました。